
「なんで雨に撃たえばみたいなアルバム作らないの?」
と言われる事があります。あるいは「ヘヴンリィ」とか。
そういうお客さんはきっと古くから応援して下さっている方です。
なので困ってしまう反面、ありがたくも思います。
≪歌の事故≫にきてね!と言いたい。そのうち全曲歌うよ。
あるいは最近、知人や知らない人から
「なんか政治的になってきてるね」と言われる事があります。
「911ファンタジア」制作中だからでしょうか?
納沙布やグラウンドゼロや那覇に行ったりしたからかな?
ふと自然に言われるのは全然気にならないのですけど、
揶揄される感じで言われると、ちょっと心外です。
例えば僕がタスキ掛けして街宣車に乗って歌ったり
有権者の人に握手して回ったり、
まあホリエモンじゃあるまいし立候補なんかしなくても
広告代理店にCDと金を持って行き
良い感じにプロモートしてもらえるように手を打ったり
パーティーなどサロン的な場に足繁く通って業界中に顔を売って
仲間を作る事に腐心したり大物ミュージシャンに取り入ったりする感じだったら
そらちょっと政治的かもしれないなとも思うけど、
今自分がやってる事というのは
音楽始めた瞬間からずーっと一貫して気にしていること、
テーマにしている事の続きであって、
もし七尾旅人が政治的だとするならば
デビューアルバムの時から既にそうだったのですきっと。
とにかく「政治的」という言い方は
何時間考えてもさっぱり意味が判らなかったので
仮に「社会的」と言い換えてみたいと思います。
そしたら自分は迷い無く
「ハイ。僕は人間ですから
あなたや、他の皆さんと同じように社会的な存在です。」
と答える事が出来ます。
前にも書いたと思いますが、
自分は不登校児になり挫折することによって
たまたま鼻歌作曲を始めました。
趣味として始まったのではなく、一種の悲鳴として始まったのです。
(驚きに満ちた小さな悲鳴)
なので、音楽の世界における「部外者」であり、
事故的に介入した素人です。歌の事故です。
この時点で「社会的」度数がやや高めなのじゃないかとも思います。
良い機会なのでもう少し言わせて下さい。
感情や生の実感が自動的に消失してゆく社会システムの中で
それを突き破る叫び、余剰として「音楽」をみつけた自分は、
その事に驚き、微かな手掛かりを得たような気持ちになり、
声だけを使った幼稚で原始的な作曲行為に熱中しました。
その頃(94〜5年)、ほとんど間をおかずに
オウムの2つのサリン事件、
そしてそれに挟まれる形で阪神大震災が起こっています。
この大事件の連鎖は僕にも日本全体にも大きな影響を及ぼし、
今(911以降の不穏さ)に連なる流れの始まりでもありました。
日本の安全神話が崩壊し、誰もの中の潜在的な不安が表に沸き出してきました。
結果、セキュリティへの意識が高まり、異物への寛容さが失われていきました。
マスコミなど、大人が段々と、ヒステリックになってきました。
(多分、年上の人達にとってこれは、バブル崩壊後の不景気の中で
バブル時の矛盾を一気に突きつけられたような形であり、
日本人は自信を失い、意気消沈しました。
おそらくこの頃、「不安への特効薬」として
現在の「かんちがいナショナリズム」の芽が出たと思われます。
あるいはもう数年前の冷戦終結あたりからかも知れませんが
小学生だったしよう判らん)
自分はその直後、高校に進学するのですが
その前の15年間で性格はかなり歪んでおり、
作曲ばかりやっていたかったためすぐに中途退学してしまいました。
で、音楽で食う事を目指して上京しました。
したらそこにはジャンクカルチャーの台頭がありまして、
自分は「薬物でこのどうしようもない人格を変えられるはずだ」
あるいは、「オーバードーズこそロックだ、ソウルだ、ジャズだ」などという
幻想、カンチガイに引き込まれていきます。
(ジャンクカルチャーが持っていた誠実と不誠実についてはいずれ、
もう少し間違いなく書ける様になってから書くかもわかりません。)
そして翌年97年には酒鬼薔薇聖斗事件が起こり、
僕は再び打ちのめされました。
オウム事件、震災、少年A。
全く意味の違う三つの死は大量報道され、
大きな切断面となってその後の日本社会を決定付け、
同時に瑣末な存在である僕の事も決定付けました。
その年の暮れ、デビューへの手掛かりを掴みました。
翌98年から運良くスムーズに録音などの準備に入っていくのですが
これ以降の業界内体験はしんど過ぎて不毛でつまらない話。
普遍性も無いただの個人事かもわからないし、やめます。
で、その頃、援助交際バブルのような状況もあって、
そんな女の子の一人と暮らすうちに
いよいよ僕は「七尾旅人」になっていったのです。
この時点で既に消化し尽くせないほどのテーマを抱えており、
それらは別に好奇心で選び取ったわけではなく、
自分にとって全存在レベルで切実な問題でした。
正直言って生にまつわる全てに困っていました。暗い生活だった。
99年の1stアルバム「雨に撃たえば」は
それら事象のただ中にあったガキ・七尾が
まあ迷ったりカンチガイしたりしながら作り上げたもので、
良くも悪くも極めて社会的なものだったのじゃないかと思っています。
どの曲も、制度(政治の結果)から零れ落ちていくもの、無視されてゆくものが
モチーフになって書かれているので、
ある意味「政治的」だったとも言えます。で、ただひたすらその続きを作り続けてきたというのが
僕の実感です。
サザエの弟がカツオ、カツオの妹がワカメであるように、
「911ファンタジア」は間違いなく「雨に撃たえば」の続きで、
もうむしろ悲しいくらいに続きになっていて、
最近ぼくが根本的な変節をしたということは全くありません。
自分の考え方間違ってたな、と思うところはしばしば直す努力をしますが、
根本的なテーマは変わりようがありません。
それを一言で言うと、多分こうなります。
●「音楽」は現在、有効か?
それらは大小の社会においてどのように機能しているか?
有効であるとすれば、今後も有効であり続けられるか?
↑
この命題を問い続けるために
以下のような日々の努力目標があります。
こっちの方は自分の状況に合わせて変化してきました。
よく増えたりするし、
念頭に置かなくても実行できるようになった事はリストから消えます。
例えば。。。
↓
★毎日少しでも成長する。単なる老化でなしに、まともな大人になれるよう頑張る
★宇宙そして命とはすなわち歌である面白さを伝える
★日本や世界の事をちゃんと見る、学ぶ
★友人や家族などの事をもっとちゃんと見れるようにする
★自分が当事者として関ってきた流れから決して目をそらさない
etc..
〜追記〜ちょっと補足。
最初の方で「皆さんと同じように社会的な存在です。」と言いましたが、
そもそも人間や、人間が作り上げた物の中に
「社会的でないもの」っていうのは存在しないと思ってます。
昔書いた気がするけど
人間っていうのは皆シャーマン的な素地が有って、媒体質、メディア。
自分の属する世界の様々なものを汲み取って映し出す、「間テキスト」なんです。
で、それは単なる事実なので前提として置きつつ、
「どんどん自覚的(大人)になっていきたいな」というのが僕の目標です。
間テキストであるところの自分が最終的に「何を表現するか」という事を、
甘えず手を抜かずに考えて行きたい。
そしてより良い音楽を模索したいということです。
めちゃめちゃ普通でしょ?
たいがいの皆さんと(職種などは違っても)同じ考え方のはずです。
これが僕の今の基本的スタンスであり、
成功しているかはともかくとして、デビュー以降の流れです。
特に「うたぐるい」以降はそれが中心にきてます。
そういえば、1年前このブログを始めた時もそんなような事を言いいつつ
アホな歌を歌ってしまっていましたね。。
極めて無防備な「間テキスト」であるところの人間が
いかにして成長していくかという事において、
自分は特に仏教を支持してたりもします。
土着信仰等とのハイブリッドである様々な日本仏教ではなくて(それらも好きですが)、
仏陀自身が説いた初期仏教です。
膨張し、飽和を始めたアメリカ一国主導の戦争と経済。
これから始まる近代終焉後の
「際限なき物質的進歩と発展」が主役ではない
(そうであってはいけない)世界において
有益な、宇宙的モラル、道徳を供給してくれる
非・宗教的な優しい教え、
森にも山にも動物にも虫にも空にも宇宙にも優しい、
どんな肌の色の人間にもわけへだてなく優しい教え、
それが、仏陀が生前に言った
いくつかのシンプルな言葉にあるのではと思い、勉強中です。
ポップ・ミュージシャン的な
単なるシャーマン、巫女では駄目だという考えがずっとくすぶっているのです。
時代の欲望をあふれる才気でPOPに映し出す彼らに僕自身も魅せられてきました。
楽しませてくれる彼らが今でも大好きなのですが、
でも、自分でも音楽をやるようになってからは、どうも何かが違います。
国府達矢のやり方を見てしまってから、その思いは強まりました。
間テキストであることに無自覚的過ぎる点に違和感を持ちます。
21世紀はシャーマンや預言者や軍人さんよりも、
仏さんが良いのじゃないかと、
今はそう考えています。
もう、20世紀じゃないのだし、
カリスマなんかいらないのではとも思います。
帝国や軍隊や、もしかしたらお金も、いらないのでは。
この辺、まだまだ考えが追いつきませんが、
いずれにしても、
「歌」があらゆる人に全解放される時代は目の前です。
君は歌!
そういう事です。
「歌」を、「命」や、「豊かさ」と言い換えても構いません。
特権的な人間がそれらを独占する時代は終わったということです。
地球全体で再分配について考え始めなくてはなりません。
そのための考えをするのが僕の目的で、仕事です。
以上、七尾のスタンスの現状況について、ざっとお話しました。
ちょっと読み辛いかな。最後まで読んでくれた方ありがとう。